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東京地方裁判所 平成7年(特わ)364号 判決

本店所在地

東京都中央区日本橋人形町二丁目一一番二号

泉興産株式会社

(右代表取締役 櫻井勝朗)

本籍

神奈川県三浦郡葉山町堀内一二〇〇番地

住居

兵庫県神戸市西区井吹台東町一丁目五番地一五-三〇二号

会社役員

櫻井勝朗

昭和一八年九月二三日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件について、当裁判所は検察官長島裕 弁護人清水肇各出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人泉興産株式会社を罰金二〇〇〇万円に、被告人櫻井勝朗を懲役一〇月に処する。

被告人櫻井勝朗に対し、この裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人泉興産株式会社(以下「被告会社」という)は、東京都中央区日本橋人形町二丁目一一番二号(平成三年八月二八日以前は、東京都新宿区三栄町八番地)に本店を置き、競馬予想の情報提供等を業とする資本金八〇〇万円の株式会社であり、被告人櫻井勝朗(以下「被告人」という)は、被告会社の代表取締役として同社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、顧客から支払われる情報提供料を仮名の普通預金口座に預け入れ、売り上げの一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  平成元年一〇月一日から平成二年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四四八八万八六三六円(別紙1の1の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、右法人税の納期限である平成二年一一月三〇日までに、東京都新宿区三栄町二四番地所在の所轄四谷税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における法人税額一七〇七万五二〇〇円(別紙2の1のほ脱税額計算書参照)を免れ

第二  平成二年一〇月一日から平成三年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が五八一九万四九二五円(別紙1の2の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、右法人税の納期限である平成三年一一月三〇日、前記四谷税務署において同税務署長に対し、その所得金額が一四一万九〇五三円で、これに対する法人税額が三万一一〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成七年押第七四五号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額二〇九四万四四〇〇円(別紙2の2のほ脱税額計算書参照)と右申告税額との差額二〇九一万三三〇〇円を免れ

第三  平成三年一〇月一日から平成四年九月三〇日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億二九一八万一一四〇円(別紙1の3の修正損益計算書参照)であったにもかかわらず、右法人税の納期限である平成四年一一月三〇日までに、東京都中央区日本橋掘留町二丁目六番九号所在の所轄日本橋税務署長に対し、法人税確定申告書を提出しないで右期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同会社の右事業年度における法人税額四七六八万二八〇〇円(別紙2の3のほ脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目) 〔括弧内の番号は、証拠等関係カード検察官の請求番号を示す。〕全事実について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書(六通)

一  大蔵事務官作成の売上高調査書、役員報酬調査書、給料手当調査書、広告宣伝費調査書、支払手数料調査書、租税公課調査書、地代家賃調査書、受取利息調査書、損金の額に算入した道府県民税利子割調査書、事業税認定損調査書、査察官報告書、領置てん末書

一  検察事務官作成の(売上高)捜査報告書、(事業税認定損)捜査報告書

一  清水光敏、丸山昭子、岩野敏行の検察官に対する各供述調書

一  日本橋税務署長作成の証拠品提出書

一  東京法務局登記官作成の登記簿謄本、閉鎖登記簿謄本

第一、第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の役員賞与調査書、消耗品費調査書、保証金償却費調査書、損金不算入役員賞与調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲41)

第一、第三の事実につき

一  大蔵事務官作成の福利厚生費調査書、接待交際費調査書、旅費交通費調査書 通信費調査書、事務消耗品費調査書、水道光熱費調査書、新聞図書費調査書、雑費調査書、貸倒損失調査書、雑収入調査書、交際費損金不算入額調査書

第一の事実につき

一  大蔵事務官作成の退職金調査書、保険料調査書、事務受託手数料調査書、損金不算入役員退職金調査書

第二の事実につき

一  大蔵事務官作成の法定福利費調査書、法人税額から控除される所得税額調査書二通(甲33、37)、繰越欠損金の当期控除額調査書

一  押収してある法人税確定申告書一袋(平成七年押第七四五号の1)

第三の事実につき

一  損金の額に算入した附帯税及び過怠税調査書

一  法人税等の中間納付額及び過誤納に係る還付金額調査書

一  検察事務官作成の捜査報告書(甲42)

(適用法令)

罰条〔ただし、刑法は、いずれも、平成七年法律第九一号付則二条一項本文により、同法による改正前のものを指す〕

被告会社につき 判事各事実につき、いずれも法人税法一六四条一項、一五九条一項(ただし、判事第一事実の罰金額の寡額につき、刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一条による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)、二項(情状による)

被告人につき 判示各所為につき、いずれも法人税法一五九条一項(ただし、判事第一事実の罰金額の寡額につき、刑法六条、一〇条、平成三年法律第三一条による改正前の罰金等臨時措置法二条一項)

刑種の選択

被告人につき 懲役刑

併合罪の処理

被告会社につき 刑法四五条前段、四八条二項(各罪の罰金額を合算)

被告人につき 刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予

被告人につき 刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、競馬予想業等を業とする被告会社の社長が、将来の事業資金及び個人資産蓄財の目的で数か所の営業所の所得を除外するなどして、三事業年度にわたり無申告あるいは過少申告により所得を少なくみせかけ、合計八五六七万円余の法人税を脱税したという事案であり、ほ脱率は、通算約九九・九パーセントに達している。

右の脱税額の大きさ、ほ脱率の高さ、犯行の計画性のほか、仮名、借名の多数の預金口座を使用しての犯行態様を勘案すると、この種事案についての一般予防の必要性が強く求められることからも、被告人及び被告会社の刑事責任は重いものがあるといわざるをえない。

他方、被告人は、昭和五二年に賭博開帳図利幇助で懲役八月(三年間執行猶予)に処せられた前科があるが、以後今日まで前科前歴なく真面目に稼働して来た市民であり、本件発覚後、真摯な反省の態度を示して捜査に協力しているが、被告会社の創業者として同社において必須の人材で、家族はもとより被告会社の従業員らにとって、被告人はかけがえのない人物と認められる。

さらに、被告会社は、本件三事業年度分の法人税及び地方税を、過少申告加算税、延滞税及び重加算税等を含めて完納している。

当裁判所は、以上のほか一切の事情を考慮して、主文のとおり量刑した次第である。

よって、主文のとおり判決する。

(求刑 被告会社・罰金二五〇〇万円、被告人・懲役一年)

(裁判官 大谷吉史)

別紙1-1

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1-2

修正損益計算書

〈省略〉

別紙1-3

修正損益計算書

〈省略〉

別紙2-1

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙2-2

ほ脱税額計算書

〈省略〉

別紙2-3

ほ脱税額計算書

〈省略〉

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